9.11を経験した筆者が、米国ボーディングスクールを推す理由
幻冬舎ゴールドオンラインに定期的に寄稿することになりました。
近年、富裕層を中心に、子どもを幼少のうちに海外留学させたり、国内のインターナショナルスクールに通わせたりと、国際感覚を身に着けるための教育がひとつのトレンドになっている。本連載では、グローバルマーケットの第一線で活躍し、現在は留学サポート事業などを手がける株式会社ランプライターコンサルティングで代表取締役社長を務める篠原竜一氏が、グローバル人材を目指す富裕層の教育事情について、実体験も交えながら解説する。
2001年9月11日…あの時、筆者はWTCにいた
ウォールストリートで働く人たちの朝はとても早い。その日は雲一つない青い空。邦銀のニューヨーク支店で働く筆者は、いつものようにシステムの電源を入れ、情報端末で東京・ロンドン市場の値動きを確認。本店、香港、シンガポール、ロンドンの同僚からのメールに目を通し、トレーダーとその日の方針を議論していた。
朝食は、コーヒーとバターをたっぷりぬったシナモンレーズンベーグルの簡単な朝食を会社で食べることが多かったが、その日は86丁目と2nd Avenueにあるドイツ系移民の経営する美味しいハム店で買ったハニー・ローステッド・ハムとレタスでマヨネーズたっぷりのサンドイッチを妻が作ってくれた。そのサンドイッチをまさに食べようとしていた時に、突然ビルが大きく揺れた。
地震? 当時の筆者のオフィスは、ニューヨークのワールドトレードセンター北棟(1WTC)の50階だった。窓の外を見るときらきらとした何かが舞っていた。何かがおかしい。観光用のヘリコプターでも突っ込んだのかなあ? と思っていたら、トレーダーの一人が突然大声で叫んだ。
「逃げろ!」
その彼はイスラム原理主義テロ組織アルカイダ(ウサーマ・ビン・ラーディン)とイスラム集団(オマル・アブドッラフマーン)が関与したとされている1993年のワールドトレードセンター(WTC)の地下駐車場での爆破事件当日にWTCで働いていた。
彼は直感的にテロだと思ったという。この彼の言葉で我々は助かった。ハイジャックされたアメリカン航空11便がワールドトレードセンター北棟 (1 WTC)に突入していたのだ。1WTCの高層階では爆発的な火災が起こり、引火した燃料がエレベーターシャフトを落下させたことで1階ロビーでも爆発が発生した。
50階にいた我々は当然エレベーターが使えない。非常階段を使って避難を始めたが、当然だが大渋滞していた。階段を降りていると、突然煙くなった。とても不安な気持ちになったがどうすることもできない。当時トレーダーだった筆者はポケベルのような携帯用情報端末を持っていた。それを見て背筋が凍ったのをよく覚えている。
「Planes hit WTC(複数の飛行機がWTCに突っ込んだ)」
皆が避難しているなか、叫ぶわけにはいかない。複数の飛行機が突っ込んだということは、これは事故ではない。テロだ。
避難している我々にはわからなかったが、午前9時02分59秒、ハイジャックされたユナイテッド航空175便がワールドトレードセンター南棟(2 WTC)に突入した瞬間をテレビで観た人も多いのではないだろうか。その粉塵が1WTCの非常階段にまで飛んできたので、煙くなったのだ。
幸いにも筆者は約1時間かけて階段を降りて無事避難できたが、忘れられないのは数多くの消防士が、ペットボトルとペーパータオルを避難する我々に配りながら階段を昇って行ったことだ。彼らの多くは命を失ったはずだ。また、避難しているときに、人を押し退けて逃げるという人を一人も見なかったことがとても印象に残っている。
避難後、最初にテレビを見た時のことは一生忘れない。イスラム原理主義テロ組織アルカイダ、ウサーマ・ビン・ラディンという名前が何度もテロップに流れていたが、何のことだがさっぱり理解できなかった。当時の筆者は、とても恥ずかしいが、そういうことを何も知らなかったのだ。最初に思ったことは「この人って誰?」。プロの投資家だと思って自信満々だったあの頃の筆者。すべてが音を立てて崩れていった。
今まで自分は何をやってきたのだろう。このままでは駄目だ。多種多様な文化を理解し、歴史を学び、もっと教養を身につけないといけない。心の底からそう感じた。そしてこの経験がその後の筆者と筆者の家族、特に子どもの教育に大きな影響を与えたことは間違いない。
結局、筆者は自分自身を多様化するために、アメリカの投資銀行に転職、その後フランスの投資銀行で働いた。企業文化の違いは想像以上で、特にアメリカの投資銀行で副社長として働いていた時には、自分自身が判断し、決断しないといけないことばかりで正直戸惑うことが多かったが、かけがえのない経験となった。
そして子どもは、多種多様な価値観を受け入れ、将来グローバルリーダーになってほしいとの想いから、インターナショナルスクールに進学させることにした。アメリカのボーディングスクールを経て、現在アメリカの大学で学んでいる。
世界の富裕層が学ぶ、米国の「ボーディングスクール」
会社からニューヨーク赴任を命じられ、妻と共に普通に子育てをしていた。筆者にとっては思い出したくない記憶だが、9.11テロという衝撃的な出来事をきっかけに自分自身と子どもの教育の重要性を再認識することになった。そして自分のキャリアを真剣に考え、悪戦苦闘しながらも子育てをしてきた。
そんな筆者が最近感じるのは、同じ日本人でもアメリカの教育を受けた若者の自己肯定感は飛び抜けて高いということだ。根拠なき自信かもしれない。しかしながら、どんなに難しい答えのない問題でも自分の頭で仮説検証を繰り返し、可能な限り論理的に、かつ自分らしく表現する力がある若者はとても魅力的だ。
一方、日本では平成29・30年改訂学習指導要領について、その改訂に込められた思いが、文部科学省のホームページに記載されている。
“学校で学んだことが、子供たちの「生きる力」となって、明日に、そしてその先の人生につながってほしい。これからの社会が、どんなに変化して予測困難になっても、 自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。そして、明るい未来を、共に創っていきたい。2020年度から始まる新しい「学習指導要領」には、そうした願いが込められています。これまで大切にされてきた、子供たちに「生きる力」を育む、という目標は、これからも変わることはありません。一方で、社会の変化を見据え、新たな学びへと進化を目指します。”
日本というひとつの価値観の中で生きていると、なかなか自己肯定感は高まらない。出る杭は打たれ、協調性を求められ、我慢強く、空気を読み、普通という言葉が好まれる。しかしこれからの教育は、大人が与えたワークシートに子どもたちが取り組み、100点満点をとることを目指す教育から、一歩踏み出すということだろう。日本の学校教育はこれから変わっていくはずだ。
同時に、最近ではグローバル化に併せ、日本にあるインターナショナルスクール、アメリカのボーディングスクールへの進学を子どもの教育の選択肢として考える保護者が増えてきた。自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して行動するのがその教育の基本だ。カリキュラムはとても良く考えられていて、子どもたちは、自分の意見を論理的に表現することが常に求められる。今まさに日本が目指している教育そのものだ。
特にアメリカのボーディングスクールでは、授業、宿題、食事、洗濯、クラブ活動、ボランティア活動などとても忙しい毎日を過ごすことを通じて、タイムマネジメントを学ぶことになる。とても重要なスキルだ。また、世界中のエリート層の子弟と一緒に暮らす寮生活で学ぶことは多い。友人との生活を通じて自然にコミュニケーション能力を身につけていく。世界中の様々な価値観を持った友人との関わりから、自己肯定感を高め、他者を思いやる気持ちも養われる。
日本にあるインターナショナルスクールやアメリカのボーディングスクールを、我が子の教育の選択肢に入れない理由はない。
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