篠原金融塾 景気が急速に悪化すれば、感染防止策は功を奏すだろう
世界中で異次元の金融緩和が実施され、流動性の供給を行っているが、モノ・ヒトの流れを人工的に止めることによる個人消費の落ち込みはあまりに大きい。企業の倒産は避けられない。
WSJ紙のMarcus Walker氏(記事3/31 新型コロナで経済停止、崩壊を回避する術とは うまくいえば資本主義の柔軟性を保つ治療法となるが、多くが悪い方向に向かう可能性が高い)は以下のように語る。
「新型コロナウイルスは経済の歴史に新たな一幕をもたらした。国内経済の大部分を人工的に昏睡(こんすい)状態にし、生命維持に欠かせない臓器を生き永らえさせながら徐々に覚醒させるという政府の試みは、かつてないものだ。」
その通りだと思う。人々が恐怖で病気から逃れようとすると経済活動が停止し、社会秩序が大きく混乱する。経済活動を継続すれば、感染と死者の増加を止めることが出来ない。モノ・ヒトの流れを人工的に止めると経済は低迷するが、今は感染拡大を食い止めることが何よりも大切なことだ。変な言い方だが、景気が急速に悪化すれば、感染防止策は功を奏すだろう。
Walker氏は続ける。
「各国が期待するのは、経済活動の「一時停止」ボタンを押し、生命を救い、その後にまた「再生」ボタンを押すことだ。それが滞りなく機能すれば、現代の資本主義の柔軟性を保つ治療法となり、現代政府の創意工夫のたまものということになる。だがおそらく、多くが悪い方向に向かう可能性が高い。」
そんなにうまくいくのか?
「問題は、経済に一時停止ボタンはないことだ。外出規制や不要不急の事業閉鎖といったソーシャルディスタンス(人と人との距離の確保)措置は、大半のモノとサービスの売買を停止させかねないが、多くのコストは発生し続ける。家計は家賃あるいは住宅ローンを払わねばならず、食料品など必需品の出費もある。企業は人件費や債務など固定間接費を抱えている。銀行は資金を借りているのだから、融資を回収しなければならない。」
その通りだ。
「仮に施術が成功した場合、積み上がった公的債務と民間部門の債務を巡る対応が問題となるだろう。雇用を維持した企業の債務返済を免除すれば、民間部門の回復を後押しできるが、公的コストが増加する。」
まだ、一時停止ボタンを押していない国が世界には多数存在する。
従って、新型コロナウイルス対応後の債務問題を議論するのは早すぎるが、リーマンショックへの対応として各国中央銀行は民間のレバレッジの解消で急速に景気が後退するのを防ぐために公的のバランスシートを積極的に活用したことは記憶に新しい。その結果公的債務が急増した。
今回も世界中に助けが必要な企業が多数存在する。こういう危機的な状況からの脱却の為に財政政策を活用するのは当然だろう。しかしながら、既に危険水域にある公的債務を更に増やすしかない国が一国ではないということが重要だ。まさに公的債務のパンデミックだ。
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