篠原金融塾 メガバンクによる有価証券投資って面白い!その1
財務省が公表している投資家部門別対外証券投資(株式・投資ファンド持ち分・中長期債・短期債)というデータを見ると、銀行・生保・損保・投資信託委託会社等・金融商品取引業者など、日本の投資家が海外の何に投資しているのかがわかる。その中でも特に私が注目しているのは、中長期債(外国債券)のデータだ。外国債券を誰が買っているのか、誰が売っているのかがわかる。
2019年4月-2020年3月のデータを見てみると、外国債券の最大の買い手は銀行で8兆7千億円買い越している。そして年金、金融商品取引業者、生保だ。投資信託委託会社等、損保はネットで売り手となっている。実は生保・損保の外国債券の取扱高はさほど多くないということがわかる。
グロスのデータを見ると、金融商品取引業者を除くと、銀行、年金、投資信託委託会社等の取引高が多い。銀行っていうと預金とか住宅ローンとかそういうお堅いイメージがあるが、実は債券市場を動かす世界有数の投資家なのである。今回はメガバンクに注目してみる。
日本でメガバンクと言えば、三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループだ。そして国内事業にフォーカスするりそなグループ。
アメリカのメガバンクはJP Morgan, Citi, Bank of Americaだ。そして、国内事業にフォーカスするWells Fargo。
面白い。3メガ+1。そっくりだ。メガバンクは、様々なビジネスを展開しているが、いつもは話題にならない銀行の有価証券投資、運用サイドの話だ。
社会人のみならず、金融業界を目指す大学生も知っていて損はない情報だ。
5月に入ると日本のメガバンクの2019年度の決算が公表されるが、その前に2019年4月-12月期の損益状況、バランスシート、並びに有価証券投資の状況を確認することにする。
まずは損益状況だ。
三菱UFJフィナンシャルグループの2019年4月から12月までに経常利益は1兆円を超えている。純利益は6,566億円と2018年度と比較すると2,904億円少ないが、これは、19年4月に子会社化したインドネシアのバンクダナモンの株価下落に絡む特別損失の影響だと思われる。
次に三井住友フィナンシャルグループだ。経常利益は8,118億円、純利益は6,264億円。2018年度の純利益と比較すると969億円の減少だが、純利益を比較すると2019年度は、三菱UFJフィナンシャルグループと大きな差はない。
最後にみずほフィナンシャルグループだ。経常利益は5,615億円。純利益は4,129億円。安定感は抜群だが、他の2つのグループと比較すると収益力は劣る。
メガバンク合計の純利益は、約1兆7千億円。参考までに、同時期のBank of Americaの純利益は約2兆円だ。
バランスシートを見てみよう。
三菱UFJフィナンシャルグループの総資産は314兆円。うち貸出は、106兆円。負債を見ると預金残高は183兆円と貸出より多い。有価証券、貸出ともに残高は減少しているが、それでも有価証券投資は約62兆円、巨大なポートフォリオだ。
三井住友フィナンシャルグループは、有価証券投資、貸出ともに2019年度は大きく残高を増やしている。総資産は212兆円だ。預金残高は124兆円と貸出を大きく上回っている。有価証券投資は約28兆円。
みずほフィナンシャルグループは貸出を中心に増やしており、総資産は204兆円。預金残高は、125兆円と他2グループ同様貸出を大きく上回っている。有価証券投資は30兆円と三井住友フィナンシャルグループより若干大きい。
メガバンク合計の総資産は、約730兆円。因みにBank of Americaの総資産は約243兆円なので、メガバンクのバランスシートはBank of Amerikaの約3倍だ。
日本においては、貸出需要がなかなか伸びない中、銀行において有価証券投資は大きな収益源だ。2019年12月末のメガバンクの有価証券投資(バンキング勘定)について見てみよう。
三菱UFJフィナンシャルグループが保有するその他有価証券(Available for Sales)の残高は、58兆6千億円だ。メガバンクで最大だ。日本株の残高は略横這い。日本国債を中心に債券残高を縮小させている。昨年12月末時点での含み損益は、3兆8千億円だが、そのうち約3兆円が日本株だ。
三井住友フィナンシャルグループが保有するその他有価証券(Available for Sales)の残高は、27兆7千億円だ。三菱UFJフィナンシャルグループの半分以下だ。日本株の残高は同じく略横這い。しかしながら、日本国債、外国債券を大きく積み増している。昨年12月末時点での含み損益は、2兆5千億円だが、そのうち約2兆円が日本株だ。
みずほフィナンシャルグループ保有するその他有価証券(Available for Sales)の残高は、28兆4千億円だ。三菱UFJフィナンシャルグループの約半分だが、三井住友フィナンシャルグループより大きい。他2グループ同様、日本株の残高は略横這い。日本国債の残高を縮小し、外国債券の残高を増やしている。昨年12月末時点での含み損益は、1兆6千億円だが、日本株の含み益が1兆7千億円であり、日本国債、外国債券は含み損を抱えている状況だ。
今年の1-3月に米国債中心に大きく買われ、金利が大幅に低下しているので、各グループ共に含み損益は改善しているだろう。外国債券の保有残高は、三菱UFJフィナンシャルグループ21兆2千億円、三井住友フィナンシャルグループ10兆5千億円、みずほフィナンシャルグループ8兆8千億円。
一方、日本株は大幅に下落しており、含み損益は悪化しているだろう。日本株の保有残高は、三菱UFJフィナンシャルグループ5兆1千億円、三井住友フィナンシャルグループ3兆5千億円、みずほフィナンシャルグループ3兆1千億円。
各グループとも含み損益の殆どが日本株だ。債券の含み益は小さい。超低金利政策が継続する中で、これだけ債券の含み益が小さいとちょっとした金利上昇に耐えられないことになる。
日本株での損失を外国債券で補っている状況だろうが、ボラタイルな相場が続く中、1-3月のオペレーションで日本株のヘッジとして外国債券を積み増せたのかどうか?
財務省のデータによれば、2019年度の銀行のバンキング勘定は外国債券(中長期債)を8兆7千億円買い越している。メガバンク3行合算で見ると4-12月までには買い越し額はゼロ。ということは今年に入ってから大きく買ってきているに違いない。
過去のデータを見てみると、グループ毎に有価証券投資の取組み方が異なり、とても面白い。
三菱UFJフィナンシャルグループによる有価証券投資はALMにがちっと組み込まれているという印象。預金があってそれを原資に貸出を実施。貸出の進捗を見ながら、余資については、金利シナリオに基づき、有価証券投資を行ない、フィナンシャルグループ全体の利息収支を極大化しようというオペレーションのように見える。
三井住友フィナンシャルグループによる有価証券投資は、三菱UFJフィナンシャルグループによるものとは大きく異なる。残高の変動が大きく、キャピタルゲインを狙ったオペレーションを中心行っているのだろう。
みずほフィナンシャルグループの有価証券投資は他の2つのフィナンシャルグループの丁度中間だ。ALMという観点からキャリー収益の嵩上げと相場変動を捕捉し、キャピタルゲインを狙ったオペレーションを行っているように見える。
このようにメガバンクでも日本国債・米国債・独国債、そして、米国モーゲージ債という金利商品のトレーディングの仕方が全く異なる。大きくトレンドがでるマーケットではALMが優位だし、ボラティリティが高まり、乱高下するような相場の場合には、キャピタルゲインを狙うオペレーションに軍配が上がる。(つづく)
コメント