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執筆者の写真篠原竜一 代表取締役社長

篠原金融塾 「忍び寄る世界デフレとマイナス金利政策」 5/17/2020 日曜日

良い天気だ!気持ちの良い朝だが、日経新聞のトップ記事は「忍び寄る世界デフレ」。気分が上がらないフレーズだ。

記事の中でコロナショックは、「企業が製品やサービスを提供できなくなる「供給不足」と消費が減る「需要不足」の両面があり、供給不足が勝ればインフレになりやすいが、中国が示唆するのは需要の減少が深刻なデフレリスクだ。」だと指摘している。その通りだ。

日本と欧州の中央銀銀行は既にマイナス金利政策を実施しているが、アメリカでもデフレという話になれば、当然マイナス金利政策が視野に入ってくる。

でもこのマイナス金利政策は止めた方が良いと思う。市中銀行は個人に対しては今のところマイナス金利を適用していないし、マイナス金利での貸出も行っていないので、大きな話題にはならないが、本来であれば個人が銀行の普通預金にお金をおいておくと利息をとられる。個人が銀行からお金を借りると利息がついてくる。例えばマイナス1%で10年もの定期預金を預ける。マイナス0.1%で10年固定の住宅ローンを借りる。預金をすると利息を支払い、ローンを借りると利息を受け取る。これがマイナス金利政策だ。変な政策だ。

預金を持っていると減価していく。これにより、デフレを解消しようという政策だ。しかしながら、人々はデフレになって、1年後には色々なものがもっと安く買えると思えば、今慌てて買わない。投資は勿論行わない。投資するより、お金を持っていたほうが良くなる。お金の価値はどんどん上がる。本当にローンを借りて利息をもらえるのであれば、借りる人はでてくるが、利息をもらってお金は使わないだろう。

一旦このように物事を考える癖がついてしまった人たちがその考え方を変えるのはなかなか難しいことは日本人だったらよく知っている。

そして、人々にとってもっとも大事なものがお金になる。人々が生み出す様々な物やサービスの価値は上がらずにお金の価値が上がっていく。自分の生み出すものの価値が上がらないということは労働の価値は下がっていく。給料は上がりにくくなる。貸金庫に大切な物を預ける感覚で、普通預金にお金を寝かす。マイナス金利を付与するということになれば、本当に人々はお金を貸金庫に動かすだろう。

本来お金を持っていることはコストだ。お金は持っているだけでは何も生みださない。従って、お金は動かさないといけない。マイナス金利政策で、そのお金が貸金庫に寝るとすれば、なかなか出てくることはない。つまりマイナス金利政策に出口はない。

ナンセンスだという識者は多いかもしれないが、お金を持っていることはコストだという感覚を取り戻すためには金利を引き上げ、正常化することが重要だと私は思っている。

普通預金金利が3%に戻ったらどうだろう? 何はともあれ市場金利は上昇する。お金を1%で借りることが出来れば、直ちに借入れを実施し、普通預金に入金するだろう。毎日2%のリターンだ。実際にはそんなことが出来るはずはなく、普通預金金利が3%になると同時に、おそらく個人が借入れを出来る金利水準は4%を超える水準になるだろう。

今後は老後資金として2,000万円の貯蓄が必要だと言われている。3%付利されると年間60万円の利息が入ってくる。このお金は動き出すだろう。日本中の預金、その他投資資金の約90%以上が50歳以上の人によって保有されているそうだ。年寄り優遇政策かもしれないが。このお金はタンス、貸金庫に寝ているより、動き出した方が良い。

企業はどうか?

3%以上の利益がでるビジネスを追い求めることが必要になる。投資家の観点で考えると、3%以上の利益が出ない会社は普通預金のリターンに負けるのだ。そういう会社の株価は下落するだろう。従って、企業内に滞留していたお金が動き出す。正常な金利水準に戻すことにより、コストを意識するようになり、経済が機能し始める。


しかしながら、良いことばかりではない。金利を大幅に上げることによるデメリットもある。例えば、変動金利でローンを借りている個人、企業は、金利が急上昇することにより、その返済額が大きくなってしまう。また、市場金利が急上昇することにより、国家財政は悪化する。大きな損失を抱える投資家で市場が混乱する。

従って、マイナス金利政策を一気に正常化することには上述の通り問題も多いが、マイナス金利政策は副作用が多く、まだ導入していない国は、導入しないほうが良い。既に導入してしまった国は、説明が難しいが、徐々に解除したほうが良い。

仮に、アメリカでマイナス金利政策を実施するようなことがあれば、逆に世界的に強烈なデフレが来ると覚悟を決めたほうが良い。


経営者は投資を控え、自社株買いで一株当たり利益をコントロールすることにより力を入れる。仮に投資する場合も、生産能力拡大ではなく、生産性向上の為のM&Aに注力するだろう。いつでも買収可能なように、他の投資は控え、現金比率を高めておく。そして生産性を維持する為に継続的に人員は削減する。工場は閉鎖する。海外のビジネスから撤退する。失業者が増え、給料が上がらない。

デフレの最大の問題は、日本人が一番よく理解している。人々が、お金を求め行動し、お金を得るために働き、人々の心がどんどん疲弊していくことだ。世の中から好きなことをやって生きている人が減ることの弊害は計り知れない。

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