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執筆者の写真篠原竜一

篠原金融塾 グローバルマーケットウィークリー 10/29/2021

本格的な金利上昇はまだ始まっていないが、先週はグローバルにイールドカーブが大きくフラットニングした。デュレーションを短くして金利上昇に耐えようとしている投資家にとっては最悪な展開だ。長い間、スタグフレーションというのは教科書の中だけで議論されるものだったが、現実的に心配する向きが増えてきた。


斯かる状況下、いよいよ11月2、3日にFOMCが開催され、テーパリング(量的緩和の段階的縮小)が決定される見通しだ。パウエルFRB議長は、インフレが予想外に持続していることについて、「テーパリングを行う時期だと思うが、利上げの時期だとは思わない」と述べているが、市場では利上げの予想時期がどんどん前倒されている。このままインフレ率が高止まりするようであれば、2022年はテーパリングのみではなく、利上げの可能性が高まるはずだ。今後イールドカーブの形状は経済指標次第で大きく動くことになる。ポートフォリオマネジメントは非常に難しい。


そんな中、日本では矢野財務事務次官の論文、財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』(月刊文藝春秋11月号)が話題になっている。矢野氏は次のような警鐘を鳴らしている。日本の財政赤字、債務超過は世界でずば抜けて悪い。タイタニック号が氷山に近づいているのを皆気づいていない。政治的な人気取りのバラマキ政策が続けば日本の財政は破滅する。


この主張については、アメリカのイエール大学名誉教授であり、元内閣参与の浜田宏一氏が、「国民の福祉を忘れた矢野論文と財務省」と批判している。日本の頭脳が真っ向から対立している。私も読ませてもらったが、矢野氏の主張もその通りだと思うし、浜田氏の言っていることに違和感はない。


失われた30年の間、バブル崩壊後の経済の立て直しに税金を投入し、過去に類を見ない金融緩和政策を実施しているにもかかわらず、経済が大きく成長することはなく、国民の所得の水準もほとんど変わっていない。そして結果として巨額の財政赤字が残った。


矢野氏は、「経済成長だけで財政健全化できれば、それにこしたことはありませんが、それは夢物語であり幻想です。わが国は、向こう半世紀近く続く少子高齢化の山を登りきらねばなりません。」と述べているが、その通りだと思う。今後の社会保障費のことを考えると先行きは暗い。


浜田氏は、「民間に消費意欲、投資需要が不足して財の供給過剰で不況になっている際には、金融政策がそれらの需要を補強し、財政政策が超過需要を喚起することで国民経済は目いっぱい活動できる。これがケインズ経済学が大不況を救った原因でもある。」と言う。その通りだと思う。


そして、「日本政府の持っている実物資産を考慮に入れれば、日本は決して世界最大の債務国ではない。これが矢野論文のデータ上の事実誤認である。」と主張している。また、浜田氏はMMTが主張する、「通貨貨発行国の政府は破産しない。政府は債務超過があっても貨幣を発行すれば解消できるからである。過大な財政支出はインフレ、そして通貨の下落(固定相場国では国際収支が悪化)を生ずるだけである。その弊害はインフレが生ずることによる国民へのマイナスの影響である。」は、基本的には正しい考え方であるとした上で、「しかし、同学説はインフレに対応できる政策案が極めて不十分であり、また政府による労働の割り振りという提言は社会主義国ですでに失敗した実験を繰り返す危険すらある。MMTに対する論争が内外できわめて過敏になっていることも理解できる。」と述べている。


私が二人に聞きたいと思ったことは、歳出を減らすにしても、増やすにしても、「これからどうやってお金を使うのが良いのか?」ということだ。


世界最大の債務国であるという矢野氏の主張に対して、日本政府の持っている実物資産を考慮に入れれば、日本は決して世界最大の債務国ではないと主張する浜田氏。アカデミックにはどう考えるべきなのか興味はあるし、今後の財政政策を考える上でとても重要な議論なのだとは思うが、どちらが正しいとか間違っているとかいう議論で終わって欲しくないと思う。


現在の日米欧の金融政策の考え方は、「インフレ率の上昇が限度を超えるまでは金融緩和を維持する」というものだ。金利を手段としてマネーサプライをコントロールするのみならず、国債などの購入を通じて大量の資金を供給している。MMTに基づく財政政策の考え方は、「インフレ率の上昇が限度を超えたら増税」というものだ。


それでも成長しない日本。浜田氏が言う通り、「民間に消費意欲、投資需要が不足して財の供給過剰で不況になっている際には、金融政策がそれらの需要を補強し、財政政策が超過需要を喚起することで国民経済は目いっぱい活動できる。これがケインズ経済学が大不況を救った原因でもある。」のであるのなら、需要を補強できない金融政策、超過需要を喚起できない財政政策共に解決しないとならない課題があるのだろう。


私は、日本の最大の課題は「少子高齢化」だと考えている。日々生活しているとなかなか実感できないが、危機的状況だ。このままだと日本の総人口は、2053年に1億人を下回り、2065年に8,800万人、2115年には5,000万人まで減少する。この状況で、生産性を向上させ、経済を成長させることは非常に難しい。私は、今こそ若い世代が安心して結婚し、子育てが出来る、先行きに希望の持てるような政策中心に税金を使うべきだと思っている。また、物凄いスピードで世の中が変化していく中で、留学、起業などにチャレンジする人々をサポートするために税金を使って欲しいとも思っている。


今まで散々財政赤字を作ってきた世代の責任は、日本は世界最大の債務国と言う表現が正しいとか正しくないとかより、「お金の使い方」を議論することのほうが重要だと思う。MMTが正しいとか正しくないとかはアカデミックな世界で議論を続ければよいと思うが、国、財務省、経済学者には、経済成長の実現するためにどのように効果的に税金を活用していくのかを提言して欲しい。


国が悪い、官僚が悪い、部分は確かにあるかもしれない。しかしながら本当に必要なのは、民間主導の経済成長だ。失われた30年の間、一人一人は一生懸命働いてきた。それでも成長できなかった日本に欠けていたものは何か?


中高年の日本人であれば、皆わかっているはずだ。デジタル化の進展でグローバリゼーションの動きが加速する中、GAFA+Mというプラットフォーム上が今や世界的な大市場だ。凄いスピードで世の中が変わっていく中、日本は過去30年、新しい価値を生み出すことが出来なかった、イノベーションを起こすことが出来なかったということに尽きると思う。


これだけ多くの社会課題がある日本。新しいデクノロジーを活用しながら、その社会課題を解決しようとする取り組みこそ大きなビジネスチャンスがあるはずだ。既存の日本社会の枠組みの中で競争するのは益々大変になっていく。一方で新しい価値を提供出来れば、スマホを通じて、それを求める世界中の人、会社にアクセスできるはずだ。民間で働く人達にとっては、もはや国境などない。日本、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、どこででも自分のやってみたい勉強、仕事に取り組むことが出来るグローバリゼーションは決して悪い時代ではないはずだ。






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