篠原金融塾 米雇用統計と株式市場
アメリカでは、1)店舗が破壊され、都市が燃やされ、2)米中問題が再燃、3)新型コロナウイルスの感染第2波リスクが払しょくできない、状況なのに、何故株式市場の上昇が続いているのか?
アメリカでは、過去にこれほどの短期間にこれだけの人が失業したことはない。本日(5日米国東部時間午前8時30分)5月の雇用統計が発表される予定だ。非農業部門の就業者数は3~4月に計2,140万人減少した。5月の雇用統計ではさらに800万人減少というのが市場の見方だ。ということは、アメリカでは、パンデミックが始まって以来、わずか3か月で、約3,000万人の職が失われたということになる。5月の失業率の予想は19.8%となっている。
4月の米貿易統計によると、財とサービスを合わせた輸出入の総額がほぼ10年ぶりの低水準に落ち込んでいる。旅行関連の輸出入が急減していることは当然だが、財の貿易を見ると、輸出は資本財、自動車、消費財、石油などの工業製品など幅広く減少。輸入も資本・消費財、自動車、食品が落ち込んでいる。今後中国政府の指示により、中国企業による大豆など米国産農産物の一部の購入を停止する可能性もある。
株式市場が高値を試す材料はない。しかしながら、市場参加者にとっては、これらは既に過去のデータだ。何かあれば、FRBによる流動性の供給が約束されている。市場参加者は、経済再開を受けて、今後の景気回復に期待している。
そんな中、最大1兆ドル(約109兆円)規模と言われている追加経済対策を協議するための会合が予定されていたが、全米に広がった警察の暴力に抗議するデモへの対応でキャンセルされたという話が報道されている。こんな大変なときだからこそ抗議デモが拡大してしまっているのかもしれないが、これから先の経済対策が遅れることには大きな問題がある。経済対策の実施が遅れることで、経済再開がスムーズに行われないと失業者が更に増えてしまう可能性もある。
そうは言っても、デモによる混乱が経済再開に大きな影響を与えない限り、本日発表される雇用統計が仮に弱くても、株式市場がクラッシュするようなことにはならないだろう。経済再開だけでまだ上値を試せるだろう。ワクチン若しくは治療薬の開発というニュースが出てくれば、経済再開の動きは更に加速する。従って今の市場の値動きがおかしいと言うつもりはない。
しかしながら、「何かおかしいよね。何故?」というのが当たり前の反応だし、とても大切だ。この意識が徐々に薄れていくのがバブルだ。リーマンショック時は、サブプライムモーゲージの延滞率が急上昇しているにもかかわらず、証券化商品の価格は大きく動かなかった。「何かおかしいよね。何故?」という会話は当然あったが、市場は活況でその意識が徐々に薄れていった。
世界中の中央銀行は、自分達が何としても金融市場を支えるという気持ちで政策を実施しているだろう。同時に一日も早く効果的な財政政策が実施され、経済が自立的に回復することを願っているだろう。
ということは、今後数年の間は世界的に異次元金融・財政刺激策が継続されそうであり、リスク資産は堅調に推移することになるかもしれない。
それでも「何かおかしいよね。何故?」という感覚は忘れずに持ち続けたい。世界は、戦後最悪の景気後退の真っただ中にいるわけだから。
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