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執筆者の写真篠原竜一

篠原金融塾 グローバルマーケットウィークリー 1/28/2022

昨年末にはとても予想できなかったが、28日に東京都が確認した新型コロナウイルスの新たな感染者は1万7,631人で、4日連続で過去最多を更新している。直近7日間の一日あたりの平均は1万2895人で、前の週と比べて208.2%という状況だ。アメリカでは、多くの人がワクチンを接種したり過去に感染したりしたことである程度の免疫を持っていることや、オミクロン株はこれまでの変異ウイルスと比べ、感染しても重症化しにくいとみられることから感染者の数に対する重症者や死者の割合は以前より低くなっているものの、一日に報告される新型コロナウイルスの感染者は約70万人、新たに入院する人の数は約2万人という状況だ。これだけ感染者が増えてしまうと、死者の数は一日当たり約2,000人となっている。世界中で感染拡大が止まらないが、世界が直面している問題は感染症だけではない。


地政学リスクも顕在化してきている。米国務省が在ウクライナ大使館の職員の家族に対し、ウクライナから退避するよう命じたとの報道に加え、米国防総省は24日、ウクライナ情勢の緊迫化を受け、8,500人規模の米軍部隊に対し、警戒態勢を強化して欧州への派遣に備えるよう命じたとの報道だ。北大西洋条約機構(NATO)が即応部隊(NRF)の編成・出動を決断した際、同部隊に参加する方針で、NRFは米国を含む加盟国による4万人ほどの多国籍軍で構成されるとのこと。バイデン米大統領は、英仏独など欧州の首脳とオンライン形式で対応策を協議しているという。市場のボラティリティは急上昇している。


地政学リスクを主因とした市場変動リスクのヘッジするためにできることはただひとつだ。保有資産を減らすしかない。状況が悪化すればリスク資産は更に売られ、状況が改善すればリスク資産は買い戻される。それを事前に予想することは非常に困難だ。


そんな中、連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されたが、今回の声明文からは、前回まであった「目標達成に向けてパンデミック下で経済成長を積極的に支えていく」という1文が削除された。いよいよ政策の転換だ。声明文は予想通りという向きが多いが、明らかにタカ派な内容だ。


今回のFOMCでは、市場の予想通り政策金利をゼロ近辺で据え置くことを決めた。そして、量的緩和策については、毎月の資産購入ペースを減額し続け、3月上旬に購入を終了すること、金利政策については、2%を大幅に上回るインフレ率と力強い労働市場を踏まえ、委員会はFF金利の目標レンジを引き上げることが近く適切になるとみていると公表した。


資産買い入れプログラムの縮小が3月上旬に完了するということは、それ以降はFRBによる米国債、並びにモーゲージ債の購入は行われないということだ。FRBは、パンデミック前と比べると約2倍に膨らんだ約9兆ドルの保有資産をいよいよ縮小させる。まだ詳細はわからないが、FRBはバランスシートを縮小するとは言っても、市場で米国債、モーゲージ債を売却するという荒っぽいことを行うつもりはないだろう。そんなことをしたら市場は大混乱だ。従って、満期を迎える米国債、モーゲージ債の期限前償還分の再投資を行わないというやり方で徐々に保有資産を減らしていくだろう。そうは言っても、FRBからの米国債、並びにモーゲージ債の購入が行われないということは市場の需給を大きく変えるはずだ。特に利上げが開始され、打ち止め感がでないステージでは、モーゲージ債を筆頭に社債などのスプレッドプロダクトは大きくアンダーパフォームするものと思われる。


パウエルFRB議長は記者会見で、FOMC は3月15~16日の次回会合で利上げに踏み切る準備ができていると説明した。インフレ指標を見る限り、とても一時的な要因でインフレ率が上昇しているとは思えないということだろう。経済再開で物流コストが大幅に上昇、半導体などの中間財の不足を背景に、インフレ率は数十年ぶりの水準に上昇している。加えて、失業率は昨年6月の5.9%から12月には3.9%に低下、賃金は上昇している。また、米商務省が28日に発表した2021年12月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比+5.8%と、1982年以来の高い伸び。そして、FRBが注目するコアPCEも前年同月比+4.9%と、1983年以来の高い伸びを記録した。


アメリカでは、いよいよ利上げが始まる。


パウエル議長は、景気をスローダウンさせることなく、インフレを抑えるというセントラルバンカーにとって最も難しい課題に取り組むことになる。釈迦に説法だが、デフレからの脱却も大変だが、インフレからの脱却も容易ではない。


マーケットを見てみると、米2年債はこの1週間で約16bp上昇、1.17%での越週となった。とはいってもまだ1.17%だ。今年4-5回の利上げが予想される中、仮にFF O/N金利が1-1.25%まで上昇するとすれば、米2年債は1.75-2.00%まで売られたとしても不思議ではない。米10年債は週央にかけて大きく売られたものの、週末に向けて戻し、この1週間で約1bp上昇、1.78%での越週となり、2年10年のイールドカーブは約16bpフラットニングする展開となった。


仮にO/Nで運用すれば1.25%の利息が入ってくるのであれば、10年間のリスクをとって1.78%の利息は魅力的ではない。足許では新型コロナ並びに地政学リスクという不安材料があり、この程度の金利上昇で済んでいるが、新型コロナの感染拡大がピークアウトし、地政学リスクが沈静化すれば、経済活動が活発化、インフレ率が更に上昇すると思料され、その場合、2年債のみならず、10年債が大きく売られるような本格的なベアマーケットになる可能性もある。私は債券市場に弱気すぎるのかもしれないが、この局面では楽観的すぎるよりも良いと思っている。仮に私の見方が間違っていて、金利の上昇が限定的であれば、株式市場に与える影響も限定的なはずだ。そして、FRBによる金融政策により、インフレ率を安定的な水準に戻すことが出来れば世界経済に与える影響も限定的からだ。


日本についてはアメリカよりも懸念材料が多い。新型コロナの感染拡大が止まらず、本格的な経済再開には程遠い状況だ。そんな中、日本の輸入物価は足許対前年比で約40%以上も上がっている。決して経済活動が活発化し、賃金上昇を伴うような、良い形でインフレ率が上昇している訳ではない。地政学リスクを主因に原油価格が引き続き上値を試している。今週は円安が進んだが、更に輸入物価が上昇する可能性が出てきた。中国は北京オリンピックを前にゼロコロナ政策を強化しており、グローバルサプライチェーンの目詰まりは改善するどころか悪化しかねない状況だ。加えて、日本ではオミクロン株の感染急拡大を受け、再び人流抑制策を導入する可能性も高まっている。来週初の日本株は買われて始まるかもしれないが、仮に米国株が落ち着きを取り戻したとしても、今の状況では日本株に強気になれない。





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