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執筆者の写真Ryuichi Shinohara, CEO

篠原金融塾 インフレーションについて考える グローバルマーケットウィークリー 6/11/2021

今週は、FOMC、そして日銀の金融政策決定会合が予定されている。世界では経済活動が再開する中、ワクチン接種の遅れから日本では、なかなか経済活動が元に戻らないが、20日に期限を迎える緊急事態宣言はどうなるのでしょうか?仮に解除されても、まん延防止等重点処置に移行するようでは本格的な経済活動再開は期待できないのでは?


インフレーション。アメリカの労働市場は、FRBの想定以上に過熱しているわけでも、想定以上に回復が遅れているわけでもなく、債券市場にとっても、株式市場にとっても良い感じだ。中央銀行は、従来は予測に基づきインフレに先んじて行動することに重点を置く姿勢を貫いていたものだ。しかしながら、今や、実際にインフレが到来するまで待つ姿勢に変わっている。今後の動向を注視するとは言うものの、世界中の中央銀行はインフレリスクをそれほど気にしていないように見える。


中央銀行だけではない。米系投資銀行は、目先の米国債ボラティリティー低下を見込む取引を推奨している。たしかに債券のボラティリティーは低下している。インフレ動向を見極めるにはまだしばらく時間がかかるのは事実であり、米国債の利回りが現在のレンジ内での推移を続けるとの見方は正しいのかもしれない。オプション商品を扱わない投資家に対し、米国債を保有し、キャリーをとる戦略を推奨しているということと同義だ。米国10年債が上下25bp程度の値幅(米国10年債1.25%-1.75%)で推移すれば収益が上がる取引を推奨している。こういうトレードが人気なのだとすれば、米国債は足許もう少し買われるかもしれない。1.25%に向けて大きな買いが入ってくる可能性も排除できない。


同時に、ちょうど東京オリンピックが開催される7月のFOMC、もしくは、8月の国際経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)では、テーパリングの議論が行われ、今後の方針が発表されるかもしれないと考えている市場参加者も少なくない。市場参加者は、夏に向けてボラティリティーが大きく上昇する可能性があることは忘れてはいけない。その際には一気に米国10年債が1.75%を試す展開になるかもしれない。


本当にインフレーションを心配しないで良いのか?


グローバリゼーションとは、効率化の歴史。明らかにデフレーション効果が大きかった。世界各国が、緊急時に自国第一主義をとるのは当然であり、グローバリゼーションの動きがいったん止まっているようにも見える。しかしながら、新型コロナが落ち着けば、グローバリゼーションの動きは再加速するはずであり、従って一時的なインフレ率の上昇と考えるのが全うな考え方なのかもしれない。


しかしながら、仮にデフレ・インフレの転換点にいるとすれば、間違えた場合の代償は大きい。米10年物国債を利回り1.5%で購入している人は、短期的には儲かるかもしれないが、インフレ上昇でひどい損失を被る可能性がある。一定期間にわたってインフレ率がFRBの目標の2%を達成し、その水準で推移する限り大きな問題はない。しかしながら、インフレ率が1980年代の平均5%超に匹敵するようなものになれば、米国債は大きく売られることになる。


そうは言っても当時とは状況が違うので過度に心配する必要はないというのがコンセンサスだ。インフレ率が急激に上昇し、どうしようもない状況になるとは思えないのも事実だ。しかしながら、少なくともポートフォリオマネージャーは、リスクシナリオとして、インフレ率が大きく上昇する時の対応について、シミュレーションしておく必要があるだろう。


何故なら、過去30年インフレ率の上昇と戦ったことのなるセントラルバンカー、ポートフォリオマネージャー、プライマリーディーラー、ストラテジスト、そしてエコノミストが存在しないからだ。どうしてよいかわからない時に一番危ないことが起きてしまうものだが、その時に専門家は「想定外」という言葉を使うもので、その説明は市場参加者にとって何の役にも立たないからだ。





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