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執筆者の写真篠原竜一 代表取締役社長

篠原金融塾 グローバルマーケットウィークリー

1994年当時のFRB議長グリーンスパン氏が使った言葉が「Preemptive(予防的)な利上げ」。そもそもグリーンスパン氏の文章は理解するのが難しかったが、当時このPreemptiveという言葉は大きな議論となった。Preemptiveだから飽くまでも予防的に利上げを実施したわけであり、連続的な利上げにはならないだろうという見方とFF金利を3%に据え置いてきた低金利政策からの出口戦略が始まったわけであり、FRBは潜在成長率を上回る経済成長が続けばインフレ圧力が顕在化すると考えており、連続的な利上げに繋がるという見方に分かれた。結局FRBは1995年までにFF金利を300bp引き上げ6%迄の利上げを実施することになり、モーゲージ債が急落するなど市場に大きな影響を与えながらもインフレを予防した。

識者によれば、当時とは状況は大きく異なり、現在FRBはインフレを阻止するための予防的な利上げ戦略を実質的に放棄する準備をしているという。FRBが公表したFOMC議事要旨(7月28~29日開催)では、ゼロ金利政策下どのように成長を促進するかという課題が議論の対象となっている。また、市場で話題になっているイールドカーブ(利回り曲線)の上限設定については、多くのFOMCメンバーが、将来的な選択肢として残されるべきとしながらも、現時点では上限設定は正当化されないとの見解を示している。この点は日銀とは大きく異なる。

そんな中、世界中の注目が集まるカンザスシティー連邦準備銀行主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)にて、FRBのパウエル議長が27日に「金融政策の枠組み見直し」というテーマで講演を行う。当然ながら市場の注目が集まる。

日本人である私にとってとても興味深いのは日銀が採用しているイールドカーブコントロールの実施について将来の潜在的なコストを考えると、その運用にはFRBは慎重な立場にあるということ、そして、当然ながら今後のFRBの金融政策がどのように変わってくるかということだ。FRBが政策の枠組みを見直せば、それは全ての国の金融政策に影響を与えることは確実だ。

市場では、FRBによるイールドカーブコントロールが導入されないことが、ややタカ派と理解されたようだ。しかしながら、繰り返しお伝えしているように、FRBは、新型コロナウイルス感染拡大による米経済の回復について先行き不透明感が強いと強調しており、とても慎重だ。今の段階ではっきりしていることは、ゼロ金利政策が当面解除される可能性は小さく、何かあれば、FRBは躊躇なく出来ることは何でも実施するということだ。3月にベア一色になった株式市場が新型コロナに対するワクチン・治療薬が開発されたわけではないものの、経済が再開し、高値を試しているのは、FRBによる金融政策に対する信頼感であり、FRBによる徹底的な流動性の供給にほかならない。

「金融政策の枠組み見直し」というテーマでの講演では市場に誤解を与えるものであってはならない。その大役を果たすのがバーナンキ氏・イエレン氏という経済学者ではなく、法律家のパウエル議長というのがとても興味深い。

パウエル議長の講演次第ではボラタイルな展開も予想されるが、大枠の話であり、より突っ込んだ議論にならない限り、金融市場が大きく混乱することにはならないだろう。


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