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執筆者の写真篠原竜一

篠原金融塾 ~パウエルFRB議長 ジャクソンホール会議 ~グローバルマーケットウィークリー 8/26/2022

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長本人が言う通り、ジャクソンホール会議での発言はより短く、焦点を絞り、メッセージはより直接的なものとなった。


最初に、「連邦公開市場委員会(FOMC)の現在の最大の焦点は、インフレ率を2%の目標まで引き下げることである」ことを明言。「物価の安定は連邦準備制度の責任であり、経済の基盤である。価格の安定がなければ、経済は誰のためにも機能しない。特に、物価の安定がなければ、すべての人に恩恵をもたらす強力な労働市場の状況を持続的に実現することはできない。高インフレの重荷は、それを負担する能力が最も低い人々に最も重くのしかかる」と続けた。


マーケットではアメリカ経済の減速懸念を語るエコノミストが多い。パウエル議長もそのリスクを否定はしていないが、以下の通り、インフレ率を低下させることが何よりも大切だと強調している。


「物価の安定を回復するには時間がかかり、需要と供給のバランスをより良くするために我々の手段を力強く行使する必要がある。インフレ率の低下は、トレンド以下の成長を持続させる必要がありそうだ。さらに、労働市場の環境も多少軟化する可能性が非常に高い。金利の上昇、成長の鈍化、労働市場の軟化はインフレ率を低下させる一方で、家計や企業に何らかの痛みをもたらすだろう。これらはインフレを抑制するための不幸なコストである。しかし、物価の安定を取り戻せなければ、もっと大きな痛みを伴うことになる。」


「米国経済は、パンデミック不況後の経済の再開を反映した2021年の歴史的な高成長率から明らかに減速している。最新の経済データはまちまちだが、私の見方では、わが国の経済は引き続き強い底力を見せている。特に労働市場は好調だが、労働者の需要が供給を大幅に上回っており、明らかにバランスが崩れている。インフレ率は2%を大きく上回っており、高いインフレ率は経済全体に広がり続けている。7月のインフレ率の低下は歓迎すべきことだが、1か月の改善では、インフレ率が低下していると確信するまでに委員会が確認すべき内容には程遠いものである。」


そして、「インフレ率が2%をはるかに上回り、労働市場が極めてタイトな現状では、長期的な中立値の水準は立ち止まったり、小休止したりする場所ではない」とその考えを示した。


パウエル議長は「物価の安定を回復するには、しばらくの間、制限的な政策スタンスを維持する必要がありそうだ」と述べた上で、「6月のSEPで示された委員会参加者の最新の個別予測では、2023年末までのフェデラルファンド金利の中央値は4%をやや下回る水準にある。参加者は9月の会合で予想を更新する予定」だと続けている。9月のFOMCでのSEPの予測見直しには注目すべきだろう。


ここからはインフレのお勉強だ。


「我々の金融政策の検討と決定は、1970年代と1980年代の高くて不安定なインフレと、過去四半世紀の低くて安定したインフレの両方から、インフレの力学について学んだことを基礎にしている。特に、我々は3つの重要な教訓から学んでいる。」


「第一の教訓は、中央銀行は低位で安定したインフレを実現する責任を負うことができ、また負うべきであるということである。今となっては、中央銀行やその他の人々がこの2点について説得を必要としていたことは不思議に思えるかもしれないが、ベン・バーナンキ前議長が示すように、大インフレの時代にはこの2つの命題は広く疑問視されていた。現在では、これらの問題は解決されたと考えている。現在の高インフレは世界的な現象であり、世界の多くの国々が米国と同等かそれ以上のインフレに直面していることは事実である。また、私の考えでは、米国の現在の高いインフレは強い需要と制約された供給の産物であり、FRBの手段は主に総需要に作用していることも事実である。いずれも、物価の安定を達成するという連邦準備制度に与えられた任務を遂行する責任を弱めるものではない。需要が供給とよりよく調和するよう緩和するために、やるべきことがあるのは明らかだ。我々はその仕事をすることを約束する。」


「第二の教訓は、将来のインフレに対する国民の期待が、長期的なインフレ経路を設定する上で重要な役割を果たし得るということである。今日、多くの指標から見て、長期的なインフレ期待は落ち着いているように見える。これは、家計、企業、予測担当者に対する調査や、市場ベースの指標に広く当てはまる。しかし、インフレ率がしばらく我々の目標を大きく上回って推移してきたことを考えると、それは自己満足の域を超えるものではない。」


パウエル議長は、インフレ期待が高止まることは何としても避けたいと考えているようだ。


「インフレ率が長期にわたって低位で安定的に推移すると国民が期待するならば、大きなショックがない限り、そうなる可能性が高い。しかし、残念ながら、高くて不安定なインフレに対する期待も同じである。1970年代、インフレ率が上昇するにつれて、インフレ率の高さへの期待が家計や企業の経済的意思決定に定着していった。インフレ率が上昇すればするほど、人々はインフレ率が高止まりすると予想するようになり、その確信を賃金や価格決定の中に組み込んでいったのである。1979年の大インフレの最中にポール・ボルカー元議長が述べたように、「インフレはそれ自体を餌にしている。だから、より安定した、より生産的な経済への回帰の仕事の一部は、インフレ期待の支配を解かなければならない」。」


「インフレが持続的に高い場合、家計や企業はインフレに細心の注意を払い、経済的な意思決定に反映させなければならない。インフレ率が低く安定しているときは、家計や企業の関心は他のことに向けられ、自由である。グリーンスパン前議長はこのように言っている。「すべての実際的な目的のために、物価の安定とは、平均的な物価水準の予想される変化が十分に小さく緩やかであり、企業や家計の財務上の意思決定に重大な影響を与えないことを意味する」。」


「もちろん、インフレは今、誰もが注目していることであり、今日の特別なリスクも浮き彫りになっている。現在の高インフレが長引けば長引くほど、インフレ期待が定着する可能性が高くなる。」


「第三の教訓は、「やり遂げるまでやり続けなければならない」ということである。歴史が示すように、インフレ抑制のための雇用コストは、高インフレが賃金や物価の設定に定着するにつれて、遅れれば遅れるほど増大する可能性が高い。1980年代初頭に成功したボルカー・ディスインフレーションは、それ以前の15年間、インフレを引き下げる試みに何度も失敗してきた高インフレを食い止め、昨年春までのような低位で安定したインフレ水準に引き下げるプロセスを開始するためには、最終的に非常に制限的な金融政策の長期間が必要とされたのである。私たちの目標は、今、決意をもって行動することで、そのような結果を避けることだ。」


最後にパウエル議長はインフレ期待を落ち着かせ、実際にインフレ率を低下させるまでは利上げを継続すると述べてスピーチを締めくくっている。


「このような教訓をもとに、私たちはインフレを引き下げるための手段を用いている。私たちは、需要が供給とより良く調和するよう、強力かつ迅速な手段を講じており、インフレ期待を安定させるよう努力している。私たちは、仕事が終わったと確信できるまで、この仕事を続けていく。」


7月の米消費者物価指数(CPI)の伸びは前年同月比8.5%。4~6月期の米実質国内総生産(GDP)は2期連続でマイナス成長となった。米国債市場ではFRBが金融政策を軌道修正するとの見方が広がり、長期金利を中心に大きく金利が低下する展開となったが、パウエル議長は明確にこれを否定した。次回9月20~21日に開催されるFOMCでの利上げ幅については経済指標次第と明言を避けたが、6月と7月に続き、9月も0.75%の利上げに動く可能性を排除できない。


講演を受けて米株価は大幅に下落したが、長期金利は事前に大きく売られていたこともあり金利の上昇は一服したが、いよいよフェデラルファンド金利の水準が3%の水準まで上がることを考えると現在3%台前半の10年国債金利は3.5%レベルまで売られたとしても不思議ではない。






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