篠原金融塾 リニア新幹線とホスピタリティ業界 5/18/2020 月曜日
経済評論家の加谷珪一氏の「新型コロナで万事休すか、リニアを待つ無残な末路」という記事を読んだ。加谷氏は、コロナ後の社会を見据えた上で、鉄道網をどう運営していくのか国民的な議論が必要だと主張している。ゴールデンウィーク期間中の新幹線利用者数は95%減だったそうだ。今まで鉄道というものに特別に興味があったわけではないが、記事を大変興味深く読ませて頂いた。
記事は、「コロナ危機が台頭した今、こうした惰性によるプロジェクトを継続する余力はもはや残っていない。現時点において感染拡大防止が最優先事項であることは言うまでもないが、一方で、日本経済の中長期的な戦略見直しの議論もスタートさせる必要がある。当然だが、議論の中にはリニア新幹線の計画についても含めるべきだろう。」と締めくくっている。
コロナショックは私が思っている以上に様々な分野へ影響している。というか国の在り方そのものをもう一度見直さないといけないほどその影響は大きいようだ。
記事の中で私が注目した部分は以下の通り。
「日本は今後、急激な人口減少フェーズに入ることが確実視されており、IMF(国際通貨基金)では人口減少に伴って日本のGDPが今後40年の間に、現時点との比較で25%減少するとの試算を公表している。この数字は大げさでも何でもなく、マクロ経済のモデルに沿って計算すれば、誰がやっても似たような結果を得ることができる。つまり日本は何もしなくても経済が急激に縮小することが確実な状況であり、日本は望むと望まざるとにかかわらず、コンパクトな社会にシフトする必要に迫られている。今回のコロナ危機は、短期的にはもちろんのこと、中長期的にも、人やモノの大規模な移動を抑制し、ITを使った効率的な社会の建設を促すことになるだろう。」
日本のGDPが25%減少するって凄い話だ。日本のGDPは約500兆円。それが125兆円減少して375兆円になるって話だ。人口減少に伴って日本のGDPが大幅に減少する。これがなぜ起こるかと言えば、企業が製品やサービスを提供できなくなる「供給不足」ではなく、消費が減る「需要不足」からだ。経済が急激に縮小していく。そしてそれがインフレ的かデフレ的かと聞かれれば明らかにデフレ的だ。
この記事にあるように、日本はコンパクトな社会にシフトする必要に迫られているのだろう。中長期的にも、人やモノの大規模な移動を抑制し、ITを使った効率的な社会の建設を促すことになるという見方もそのとおりだと思う。とても勉強になる。
私の素朴な疑問は、その時に日本人の生活は今より豊かになっているのか?もしかすると「豊か」の定義自体を考え直さないといけないのかもしれない。
私は人口減による需要減を補うためにどうすれば良いのかを、この2-3年考えている。コロナショックでヒトやモノの流れが根本的に変わってしまい、今後40年間、世界中の人々が外出を自粛するような世の中だとすれば私の考えていることなど実現しようがない。別の戦略を考えないといけない。
しかしながら、ワクチン若しくは治療薬が開発されれば世の中は一気に動き出すはずだ。もう少しだけ私はこれからの日本が引き続きインバウンド需要をどうやって取り込んでいくかを真剣に考えてみようと思っている。
日本人が減り、需要が減少するのであれば、外国人に対してモノやサービスをもっと提供するしかないと考えてきた。もっと沢山の外国人に日本に来てもらうにはどうすれば良いか?顧客が外国人になる以上グローバル教育の進展なしには先に進めない。そんな風に考えてきた。
日本政府もインバンド需要を増やす努力を続けてきた。この努力が良い方向に向かっているような気がしていた。しかしながら、コロナショックで状況は大きく変わってしまった。ただでさえ、2019年は日韓関係の悪化からインバンド需要が減少していたことに加え、今年に入り、中国をはじめとするアジアからの観光客に加え、欧米からの外国人観光客も激減した。日本から海外へ旅行する人、ビジネスで出張する人も同様だ。5月のゴールデンウィーク(4月29日~5月6日)の国際線の乗客数は日本航空で99.1%減、全日空で97.3%減と、とんでもないことになっている。
それでも出口は来ると信じている。出口が見えて、外国人観光客が戻ってきたときに、より多くの外国人に来てもらい、滞在に日数も2-3日ではなく、毎年2-3週間過ごしてくれるような国にしていくにはどうすれば良いのか引き続き考える価値はあるのではないか?
チャンスはあると思う。今のところ日本は新型コロナの犠牲者数は他国と比較すると圧倒的に少ない。第2波をうまく乗り切ることが出来れば、日本の観光地、滞在先としての安全性は更に高まることになる。日本人の素晴らしいおもてなしを求めて、例えば寒い時期の保養先として日本の人気が高まるかもしれない。
そして、交通のインフラ整備はとても重要だ。戦後の高速道路、鉄道網の整備は日本の発展に貢献してきたのは明らかだろう。日本の公共の乗り物は時間に正確で、とても清潔で、世界一だと言っても過言ではない。それに加えて、移動時間を大幅に短縮できるリニア新幹線はとても魅力的だ。3密を避けるためにも、移動時間を短縮できるメリットは大きい。リニア新幹線に乗る為に日本に観光に来る外国人も現れるだろう。日本での滞在日数を伸ばして、もうひとつ別の街を訪ねようということに繋がる可能性もある。
但し、他の都市で日本ほど充実した鉄道網を見たことがない。外国人にはその使いこなしが難しいかもしれない。またレンタカーを使った観光をしたい外国人も多いだろうが、日本の標識、特に道路案内の英語は小さすぎて見にくい。高速道路の入り口も右に行けば東京、左に行けば名古屋のような二股に分かれているところも多く、日本人でもカーナビがなかなか指示してくれず、ドキドキすることが多いので、外国人にとっては尚更だろう。
宿泊施設については、低価格で高いレベルのサービスを提供するという点では日本は世界有数だ。課題を挙げるとすれば、富裕層向けの高価格だがサービスは超一流という宿泊施設が限られているということだろう。世界では、今後プライベートジェットの需要も増えるだろう。そうやって世界を旅する人達が求める宿泊施設には、安全で快適な設備は欠かせないが、そのサービスを提供する高度な教養のあるバイリンガル人材が求められる。グローバル教育の流れを止めてはいけない。多種多様な文化圏からの観光客に対して、その違いを理解し、その上で、日本の素晴らしさを伝える力が求められる。そういう従業員のいる宿泊先に外国人富裕層は高い料金を払ってでも滞在したいと考える。それはホスピタリティティ業界のみならず、外国人顧客が増えていけばいくほど、全ての業界で必要な素養だ。
先日横浜市でのカジノを含む統合型リゾート施設(IR)開発に注力する方針を示していたラスベガス・サンズが日本へのIR進出を断念したのは極めて残念だ。日本では、反対派も多かったので、良かったという声も多い。この話になると日本ではどうしてもギャンブル依存症などネガティブなところに焦点が当たってしまうのがとても残念だ。IR開発はカジノだけに力を入れるものではない。街と一体となってその地域に根差した開発が出来れば街の発展に大きく貢献するはずである。
シンガポールの湾の目の前に建つ象徴的な高層ホテルの写真を一度は見たことがあるのではないか?世界最大の屋上インフィニティプール、飲食店20軒、ワールドクラスのカジノを併設している。ショッピングモールやアートサイエンス・ミュージアムにも直結している。このマリーナベイ・サンズを運営しているのがラスベガス・サンズだ。そのオーナーは、日本への投資に1兆円の用意があると言っていたが、先日横浜への進出を断念したという報道が流れていた。コロナショックが影響したのかどうかはわからないがとても残念だ。
日本でのIR開発は、識者によると、大阪と横浜で12,000人の雇用を生み出す一大プロジェクトだ。カジノだけだったら、ラスベガスに行けばよい。マカオに行けばよい。そうではなく、それ以外の部分も含めた総合的なサービスに力を入れることにより、外国人に今まで理解されていなかった大阪、横浜、日本の良さを満喫してもらう。その結果としてリピーターが増え、街がどんどん発展していく可能性を秘めたプロジェクトだと私は思っている。そして、外国人労働者が増えれば、そこに新しいコミュニティが出来る。インターナショナルスクールのニーズが更に高まる。良い学校が増えれば、日本への移住を考える外国人も増えるだろう。残念ながらラスベガス・サンズは撤退してしまったものの、この開発計画自体が縮小しないことを願っている。
ホスピタリティ業界のみならず、これから特に気をつけないといけないことは、仮に自分たちが仮想空間を活用するつもりはないと思っていても、仮想空間での宣伝・批判が勝手に行われる時代であるということだろう。あらゆるビジネスにおいて、仮想空間で期待させて、現実空間でがっかりさせてはいけない。外出禁止・自粛が続く世界では、人々は仮想空間の中で暮らす。6月、7月には、経済が再開し、徐々にではあるものの、人々はいよいよ現実空間へ飛び出していく。
「素晴らしい、行ってみたい、食べてみたい」という仮想空間での期待・体験を、現実空間での体験で満足度を更に高める工夫が求められるだろう。世界中の人々は、仮想空間から現実空間への移動、現実空間から現実空間への移動を伴う経験は今まで以上にリスクを伴う以上、今まで以上の満足感を求めるようになる。一回行けば気が済むような体験は仮想空間で済ますようになるのではないだろうか?今後大切になるのは、現実空間でもサービスの質を高め、やっぱり来てよかったという満足感に加え、また来たいねというワクワク感をどうやって与えるかということだ。
最近では、京都に外国人観光客が殺到し、府民の生活に影響が出ているという報道を見ることが多かった。確かにビジネスの世界でも、海外からの顧客と一緒に京都視察なんていう話も良く聞いた。それほど外国人の心をつかむ素晴らしさが京都にはある。その一方で公共の乗り物は常に混雑、道路も渋滞。府民の生活に支障がでているという話だ。それが、コロナショックで、街中から外国人観光客が激減し、京都が京都らしくなって良かったという声が聞こえてくるようになった。府民の生活という点では確かにそうかもしれない。しかしながら、今や修学旅行の延期、キャンセルも入ってしまっているようで、外国人のみならず、日本人観光客も激減だという。それはそれで問題だろう。
京都府観光入込客調査報告書の最新のデータ(2018年分)によると、府内観光入込客数は約8,505万人。府内観光消費額は約1兆3,701億円。府内外国人宿泊客数は約459万人。外国人宿泊客の国別内訳を見ると、中国、台湾、アメリカ、韓国、オーストラリア、香港、イギリス、の順となっている。
京都は、外国人観光客のみならず、当然日本人にとっても魅力的な街だ。これからの舵取りは非常に難しいが、今後この京都という世界的に有名な観光地の観光戦略に注目したい。バブルと言っても良いほどインバンド需要で盛り上がった京都。街はパンク寸前だった。どうやってバランスをとるかということを考えないといけないところまで来ていた。それがコロナショックで静かな京都が戻ってきた。
どうするのだろう?観光入込客数で見ると、2020年については、その激減が避けられない。そういった環境の下で、いかに観光消費額減少のダメージを抑えることが出来るのか?おそらく大きなダメージは避けられないだろう。
夏に向けて、経済が動き出す。そして、外国人観光客が戻ってきたときに、これからの京都はどうやってバランスをとるのか? これからの日本と言う国の在り方を考える時に京都という街の経験は、その戦略作りに役立つに違いない。
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